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岩下 亮子

忘れられないひと


私が九州にきてから12年が経とうとしています。12年前に出会ったyukaさん(仮名)が、今回のタイトルにした「忘れられない人」です。

救急外来で「強い腹痛」で入院したyukaさんは、私の2歳くらい年上の、とても可愛らしい女性でした。

彼女の病気は非常に過酷でした。スキルス胃がん、しかも体中に転移を認める末期の状態でした。即日入院となり、私が受け持つことになったのです。

「年も近いし、女性の方がいいんじゃないか」と上級医に言われたのを覚えています。

当日からすぐに抗がん剤が始まりました。過酷な治療の中、上級医の目論見ふどおり(?)私とyukaさんはとても仲良くなりました。

時には私の恋人の話をしましたし、yukaさんも私にご主人の(彼女はすでにお子さんが3人もいたのです!!)話や子育ての悩み、愚痴などをよくおしゃべりしてくれました。

ゆきさんは1か月後には著明に改善し、一旦自宅退院となりました。ご主人やお子さんと過ごす貴重な時間を神様がくれたのだと思いました。

ほんの3週間ほどでyukaさんの癌は勢いを取り戻しました。

今度は手のつけようはなく、最後はホスピスでご家族に囲まれて亡くなりました。

病院からホスピスまでの搬送は私も同行しました。

「治ったら先生の恋人とうちの家族で一緒にどこかにいこう」

yukaさんが搬送の車の中で私に言ってくれたゆきさんの可愛い声(本当にかわいい声でした)が、時々耳の中で聞こえてきます。

yukaさんはピロリ菌感染を伴うスキルス胃がんでした。進行が速く、救命が困難なことが多い癌です。

もしyukaさんが10年前に胃カメラを受けていたら?もしその時点でピロリ菌の除菌をしていたら?

もしも、もしもその結果、yukaさんが癌にならずに、今でもご主人とお子さん3人と仲良く暮らせていたかもと思うとたまらない気持ちになるのです。

「20歳になったら皆ピロリ菌のチェックをすればいい」という消化器内視鏡医がいました。私もそう思います。

もし「ピロリ菌いるのかな?」と気になる方、時々胃が痛む、という方、1度は内視鏡専門医に相談されてください。そしてピロリ菌がいたらできるだけ早く除菌してください。そのことが、貴方の10年後の未来を変えるかも、しれません。

1人でもyukaさんのような方が減ってくれたらいい。

そんなことを思いながら今日も「症状あれば胃カメラしましょうね」「ピロリ菌チェックしましょうね」と言い続けてます。

※福岡市では昨年から35歳と40歳を対象にピロリ菌検診を受けることができます


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